理生・昭和五十七年卒 森下理香

 

現勤務先・日本メキシコ学院日本コース         

一.在外教育施設

 日本人学校は、海外に在留する日本人の子どものために、学校教育法に規定する学校における教育に準じた教育を実施することを主たる目的として海外に設置された在外教育施設の一つです。学校、中学校又は高等学校における教育と同等の教育を行うことを目的としています。

国内の小一般に現地の日本人会等が主体となって設立され、学校運営委員会によって運営されています。在外教育施設には、日本人学校のほかに補習授業校、私立在外教育施設があります。平成二十六年四月現在では、世界五十一カ国・地域に八十九校の日本人学校と二〇三校の補習授業校があります。 

 派遣教員は、文部科学省の選考の上、長期研修出張という身分となり、原則二年間の委託を受けて派遣されます。


 二.メキシコ合衆国 MEXICO

 メキシコは国土一九六万キロメートル(日本の約五倍)で、人口は約一億二二三三万人(日本とほぼ同じ)です。メキシコシティの標高は二二四〇メートル(富士宮口五合目が二四〇〇メートル、日本メキシコ学院は二三九三メートル)で、高山病の注意が必要な地域です。私自身も眠りが浅かったり、運動で息が上がりやすかったりと高地特有の症状を経験しています。

メキシコと日本は伝統的に友好関係にあります。一八八八年に外交関係を樹立し、一九九七年には日本人のメキシコ移住一〇〇周年を迎えました。二〇一三年から二〇一四  年  は、メキシコとの直接貿易 を目指した伊達正宗が派遣した支倉常長慶長遣欧使節団の出帆及びメキシコ上陸四〇〇周年でした。現在の在留邦人数は約九〇〇〇人でメキシコ進出日系企業は八〇〇社に及びます。

メキシコには多数の世界遺産があります。マヤ文明にまつわるものが多く、その長い歴史と人々の発展した文化を知ることができます。またスペイン統治下時代の建物もあり、独立や革命といった国の歴史についても学ぶことができます。


三.日本メキシコ学院 LICEO MEXICANO JAPONÉS

「日本メキシコ学院日本コース」の前身は、メキシコオリンピックの年、一九六八(昭和四三)年五月に幼稚園・小学校あわせて五〇名で発足した「メキシコ日本人学校」です。一九七七(昭和五二)年九月には、日本・メキシコ両国の子どもたちが同じ敷地内で学べる本格的な国際学校である現在の「社団法人日本メキシコ学院(LICEO MEXICANO JAPONÉS,A.C.)」が誕生しました。設立当時からの基本理念である建学の精神「日本・メキシコ両国民の相互理解の増進と教育文化の交流を図り、人類の連帯感を育み、世界の平和と繁栄に貢献し得る国際性豊かな、かつ、両国民にとって有為な人材を育成すること」の実現を目指しています。日本・メキシコ両国の園児・児童・生徒が、同じ敷地内で相親しみ、自国の文化をしっかりと学ぶことと同時に、異文化を学ぶ中で両文化の相違点にも気付き、お互いの国の文化を理解、尊重しようとする資質を身に付け、将来にわたる友好関係を培っていこうとしています。 

本学院は、日本コース(児童生徒一四七名)・メキシココース(幼児・児童・生徒九八〇名)の2コースと文化センター・事務局の4つのセクションから成り立っています。〈本校ホームページ http://www.lmjapones.edu.mx/> 

 

日本コース SECCION JAPONÉS

 日本コースの児童生徒数は小学部一一七名、中学部三十名です(二〇一五年一一月現在)。職員は派遣教員が校長以下一四名、現地採用教員が三名、スペイン語科三名、英語科一名、事務職員四名、非常勤職員一名となっています。

 校務内容や教室整備は、日本の学校とほとんど変わりはありませんが、カフェテリアがあったり、運動場がラバーであったり、通学バスであったりと海外の学校としての特徴があります。

 

① スペイン語科・英会話の授業

 全学年対象(週一~二時間)にスペイン語科教員の指導のもとに行っています。習熟度別少人数で学習を進めています。各クラス数名のメキシコ国籍を持った児童生徒が在籍しています。そうした児童生徒の中には、家庭内で日本語よりもスペイン語を中心に使っている子もいます。英会話の授業として、専門の教員が小一~小三(週一時間)、小四~小六(週二時間)、中学(週一時間)、日本人教員とTTで授業を実施しています。

 

② 交流授業・交流活動

 メキシココースと同じ敷地内にある特色を生かして、様々な行事や授業などを一緒に行っています。メキシココースとの合同クラブでは、メキシコダンスや華道などがあり、両国の文化を学ぶ機会もあります。

 交流授業では、メキシココースの日本語教育部の協力を得てスペイン語と日本語を使って、両コースの児童生徒が学び合う機会を積極的に設けています。小学部では、折り紙や七夕短冊作り、和太鼓演奏など一緒に活動を楽しむ学習に取り組みます。中学部では、スペイン語・日本語・英語を使いながら、互いの思いについて話し合う学習に取り組みます。直接触れ合うことで、互いを認め合い尊重し合うことができると考えます。

 また、児童生徒の交流にあたっては、日本コース教員がメキシココースの授業参観に行き、メキシコの子どもたちの授業形態などを学ぶための研修を設けています。

 ③ 学院全体の行事

学院全体が取り組む主な行事としては、開院記念式典・大運動会・文化祭があります。中でも運動会は、日本の伝統的な運動会に両コースの児童生徒が取り組む一大イベントになっています。一〇〇〇人を超える児童生徒と二百人余りのスタッフ全員によるラジオ体操から始まり、両コースの各学年が協力して制作したオブジェを使った競技、両コース入り混じっての徒競走やリレーが、ご家族の熱い声援の中、繰り広げられます。

 

 ④ 安全第一

海外においても、何より大事なのは、児童生徒の身の安全です。日本以上に注意を払い、徹底した安全管理を行っています。学校は大きい塀と門で囲まれ、ポルテロ(警備)が二十四時間常駐しています。保護者といえども、自由に校内に入ることはできません。子どもたちはバス通学が基本です。


日本のように歩いて通学することはありません。 放課後や休日に、子どもだけで出歩くことはしませんし、家で留守番をさせることもできません。だから、学校以外で自由に遊んだり、思いっきり体を動かしたりすることは難しいのが現状です。休みの日もメキシコシティを出る場合には届け出をしてもらうことになっています。これは私たち派遣教員も同じです。所在を明らかにしておくことが、身を守る最善の方法だと考えています。

 

五.メキシコ生活

メキシコに住んで、半年。なんとか元気に過ごしています。高地のため、日常生活では、ほとんど汗をかくことはありません。学校と家の往復の毎日ですが、日曜日には家の近くの露天市場に買い物に行き、メキシコを感じています。野菜から金物、服、何でも売っている露天市場で、新鮮なフルーツや野菜、一羽で売っている鶏の必要な部分を身振り手振りで購入しています。1枚に9枚分のCDが入っているコピーCDは、時々全く音楽が聞こえません。

大変なのは、飲料水の購入です。水道水は飲めませんので、一月に一回くらい、一〇リットル入りの水を数本スーパーで購入しなければいけないからです。安全と水にはお金が必要です。安全といえば、毎日の自動車通勤は命がけです。車線は目安程度。右からも左からも少しの隙間があれば、横入りされます。三車線に四列の車というのは、日常的な風景です。自動車専用道路であっても時々人が歩いていたり、道路にはよく穴があいていたり、ふだん三十分の通勤時間が雨の日には二時間かかったりします。雨の日には、皆、トイレをすませ、飲み物食べ物の用意をして帰宅の途につきます。また、私の住んでいるアパートは古く、乗っていたエレベーターが落ちて、その天井が落下してきて、映画ダイ・ハードさながら自分で扉を開けてはいずり出たことがありました。幸い、それ以外、人がらみの危険な目にはあっていませんが、大使館の情報によると在墨邦人の窃盗、恐喝未遂、強盗等の被害もあとを絶ちません。

しかし、太陽の国メキシコは幸福度が高く、小さな危険はあれども、テロの危険はほとんどないともいわれています。家族のつながりを大切にし、小さなことにくよくよしない国民性や人々の持つエネルギーに学ぶところも多いです。メキシコの人や文化に積極的にかかわる姿勢をもって、違いを楽しみながら生活していきたいと考えています。